Topぺージ他作品集旧作品物語 -目次-第一章4葉 p1234567━8━910111213━━次葉へ
 一方、ツキウサギは巨人の井戸の奥、網の目のように張り巡らされた地下迷路の中を、まさに感だけを頼りに突き進んでいた。いや、進んでいるのか戻っているのかさえも自分では分からなかった。
 今や頭に巻いた草の目隠しなどあまり意味をなしていないが、ツキウサギが自分で課した限りは、偶然手品師のプライドに懸けてもそれを外すつもりはなかった。
 「今日は運が悪いのかしら。坂道を駆け上がったと思ったら急に体が宙に浮いて真っ逆様の真っ暗闇。どこまで行っても足にはじめじめとした冷たい岩の感触。そして何よりこのうるさいコウモリの鳴き声。」
 ツキウサギは足を止めた。
 「私がいるのは巨人の井戸の中。これは感ではなくて明確ね。」
 コウモリの通信音は入り口付近と比べ物にならないほどけたたましくなっており、井戸のかなり奥の方まで来ていることをツキウサギは感じていた。
 「耳が潰れそうよ。自分の声すら聞こえない。」
 普通、コウモリ通信士以外の者がこんなところまでくれば、不安と恐怖に押しつぶされてしまうところだが、ツキウサギは汗一つ流さず、震え一つなかった。
 ツキウサギの耳はほとんど麻痺していた。視覚と聴覚の塞がった彼女に今度は嗅覚への襲撃が始まろうとしていた。ひどい臭気が辺りに立ちこめていたのだ。
 「それにしても何なのこの匂いは。私の感ではこの辺にあなた達のトイレがあるのね。それもかなり大きな集合トイレ。肥溜めにはまるのはいやよ。」
 ギブアップと大きく一声上げれば、きっとコウモリたちが助けてくれる。しかし彼女にひるむ様子は全くなく、再び自らの感だけを頼りに歩みはじめた。
ツキウサ、彷徨う…
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